棚のインテリジェンスに最適な小売データ取得方法の選び方
目次
棚のインテリジェンスソリューションは、もはや“欲しい機能”ではなく、現代の小売業における競争の必需品です。
要点
- 本ガイドでは、小売の棚データ取得における4つの方法 ― モバイル端末、ロボット、固定カメラ、ワイヤレスカメラ ― を比較します。
- 米国や欧州の大手小売企業との20件以上の導入事例から、店舗規模、更新頻度、導入のしやすさなどの観点を考慮。コストや戦略、運用面の要素に基づき、最適なデータ取得方法や組み合わせ方を解説します。
- 複数の方法を組み合わせたハイブリッドアプローチは、コスト・カバレッジ・拡張性のバランスを最適化し、ROI向上にもつながります。
棚インテリジェンスソリューションは、棚の画像を活用し、在庫切れや価格の誤り、プラノグラムの不備といった課題を検知。すぐに対応できるインサイトとして提示することで、小売業者が迅速に問題を解決し、店舗パフォーマンスを高められるよう支援します。
棚インテリジェンスは、適切な在庫水準の維持、売上の向上、顧客満足度の改善を実現するために不可欠です。
これらのソリューションは、主に以下の3つの要素で構成されています:
- ハードウェア:小売データを効率的に取得
- AI搭載インサイトエンジン:データを処理し、店舗従業員が行動につなげられるインサイトを生成
- レポーティング:店舗、地域、カテゴリごとの状況を把握できるダッシュボードを提供し、店舗全体のパフォーマンスを可視化
そのため、ハードウェアは単なる「コスト」と見なされ、実際に価値を生み出すのは、棚の重要な課題を解決するためのインサイトという「遠い成果」と考えられがちでした。
しかし、小売データ取得用ハードウェアの選び方次第で、コスト面の不安を抑えつつ、スムーズな展開や拡張を実現することができます。さらに、追加的な業務改善効果を引き出すことも可能です。
適切な小売データ収集方法を選択する方法
このガイドでは、小売の棚データを取得するさまざまな方法を検討し、店頭在庫の確保、在庫精度の向上、棚の健全性改善につなげる方法を紹介します。内容は、米国や欧州の大手小売業者との20件以上のプロジェクトや導入事例を基にしており、店舗の規模、更新頻度、導入のしやすさといった要素も考慮しています。
分析の対象となるのは、市場で利用可能な4つの主要な小売データ取得手法 ― モバイル端末、自律型ロボット、固定カメラ、ワイヤレスカメラ ― です。これらを単独で使用する場合には限界があることも重要なポイントです。複数の手法を組み合わせた「ハイブリッドアプローチ」が、しばしば最も効果的な成果をもたらします。本ガイドではその詳細について解説します。
主要な小売データ取得方法の比較表
モバイルデバイス | 自律型ロボット | 固定カメラ | ワイヤレスカメラ |
店舗従業員は、スマートフォンやハンドヘルド端末などのモバイル端末を使用し、専用アプリで棚データを取得します。 | 店内をゆっくり巡回するロボットは、在庫、価格、商品配置に関するデータを取得します。 | 壁、天井、または高所に設置された固定カメラは、店舗の特定エリアを定期的に監視します。 | 棚や特定エリアに設置されたバッテリー駆動カメラは、店舗の特定エリアを定期的に監視します。 |
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コスト・運用・戦略面での考慮ポイント
小売データ取得方法の評価にあたっての考慮点
小売業者がデータ取得方法を評価する際には、デバイスや導入コストなどのコスト要素に加え、精度や従業員の受け入れ状況などの運用・戦略的要素も考慮することで、最適な方法を判断できます。
コスト分析
小売データ取得方法の経済性は、店舗規模(SKU数)や必要なデータ取得頻度(週あたりの更新回数)に依存します。週あたりの更新回数の目安としては、店舗への配送回数が参考になります。
本分析では、年間1,000商品をカバーするコスト($/1000商品/年) を基準としています。この指標に基づき、以下のグラフでは特定のシナリオで最もコスト効率の高い取得方法を示しています。
固定カメラとワイヤレスカメラはコスト構造が異なるものの、総所有コスト(TCO)は概ね同程度です。
これを整理すると、以下の5つのポイントにまとめられます:
- モバイル端末によるデータ取得
小規模なコンビニエンスストアや都市型店舗で、週1~5回程度の低頻度更新が必要な場合、最もコスト効率の高い選択肢です。 - ロボット
SKUが40,000点以上のスーパーマーケットやハイパーマーケットで、毎日更新が必要な場合に最も低コストです。 - 中~大規模スーパーマーケット
毎日の更新が必要な場合、コスト要素だけでなく運用や戦略面の要素も意思決定において重要になります(下記参照)。 - モバイル端末および固定/ワイヤレスカメラ
中~小規模の都市型店舗やコンビニで、毎日データ取得が必要な場合に最も実現可能性が高い方法です。 - 固定/ワイヤレスカメラ
1日に複数回や時間単位での更新が必要な店舗において、最もコスト効率の高い選択肢です。
*モバイル端末のデータ取得コストは、米国の平均時給に依存します。労働コストが低い場合、オレンジ色の「モバイル」領域は広がり、労働コストが高い場合は縮小します。
運用・戦略面の要因分析
コストは重要な検討要素ですが、棚インテリジェンスの導入成功には、さまざまな運用および戦略的要因も大きく影響します。これらの要素は、ソリューションが日々の店舗運営にどれだけスムーズに統合できるか、従業員や顧客への影響、そして全体的な戦略的価値を左右します。
運用・戦略面の分析では多くの要素が考慮されますが、本調査では9つの主要な要素に絞り、評価を1(非常に低い)から5(非常に高い)のスケールで行いました。
- モバイル端末によるデータ取得
既存の端末を活用でき、顧客への影響も最小限で済むため、最も柔軟かつ導入が容易な方法です。高い柔軟性により接続性にも優れ、どの店舗レイアウトや棚にも対応可能で、幅広い店舗フォーマットをサポートします。一方で、ある程度の人手を必要とし、革新性という観点ではやや魅力が低い点に注意が必要です。 - 自律型ロボット
小売環境に革新性や未来感をもたらし、労働集約的なデータ収集を排除できます。広い店舗でも自動でカバー可能で、調査によれば約80%の消費者が店舗内のロボットに好意的な印象を持っています。導入時の考慮点は、店舗内の通路幅や障害物によるカバー範囲、接続性の堅牢さ、運用の信頼性やメンテナンスです。大規模店舗では1~2回/日が更新上限となり、複数台の導入はコスト面で非効率となることが多いです。 - 固定カメラ
信頼性に優れ、人手をほとんど必要とせず、接続も安定しています。電源供給があるため充電不要で、店舗システムへの有線接続により、導入後は追加コストなしで日次または時間単位の画像取得が可能です。ただし、初期導入には多額の投資と工数が必要で、専門業者による設置やキャリブレーションが求められる場合があります。 - ワイヤレスカメラ
固定カメラ同様、信頼性、人手の使用量、データ取得頻度の面で優れています。多くの店舗フォーマットや棚に対して迅速かつ容易に導入できる点が強みです。定期的なバッテリー交換や接続管理が必要となる点は考慮が必要です。
ハイブリッド方式による棚データ取得
ハイブリッドデータ取得アプローチ
各小売データ取得方法にはそれぞれ独自の利点がありますが、同じ店舗内やチェーン内の異なる店舗で複数の手法を組み合わせるハイブリッドモデルは、棚インテリジェンスにおいて最もコスト効率が高く柔軟性のあるアプローチであることが多いです。
この方法により、小売業者は自社の運用ニーズに合わせて棚インテリジェンスを最適化できます。
例えば、既存のモバイル端末を活用して素早くパイロット導入を行い、最小限の投資で迅速な結果を得ることが可能です。その後、効果が確認された段階で、主要通路に固定/ワイヤレスカメラを追加したり、大型店舗にロボットを導入したりすることで、オートメーションと効率をさらに高め、投資収益率(ROI)を最大化できます。
このアプローチにより、以下が実現可能です:
- 店舗内のすべてのエリアや異なる店舗タイプを包括的にカバー
- コストと効率のバランスを最適化
- 変化するニーズに柔軟に対応
ハイブリッドデータキャプチャによる棚インテリジェンスの事例
ここでは、ハイブリッドデータキャプチャソリューションを活用して、さまざまな小売業のニーズに対応する方法を示す、匿名化された2つの事例をご紹介します。
大手欧州グローサー事例
目的:中規模スーパーマーケットおよび大型ハイパーマーケットでの棚在庫充足率向上。CPGベンダーとのデータ活用による高付加価値データの生成。
データ取得のニーズ:重要カテゴリーの毎日の更新と、全店監査はそれほど頻繁ではない。
解決策:
- 初期導入にはモバイル端末によるデータ取得を段階的に実施し、柔軟かつターゲットを絞った棚監査と迅速な問題解決を可能に。
- 高価値かつ来店者が多いハイパーマーケットの棚には固定カメラを追加し、KPIの頻繁なモニタリングを実施。一方で、モバイル端末は迅速なスケールアップのために継続利用。
- ハイパーマーケットおよびスーパーマーケットの約80%はロボット導入に適しており、次の自動化拡張ステップとして活用可能。
結果:
- 在庫充足率とプラングラム遵守率が95%以上に達し、売上が6か月で2%向上しました。
- CAPEXとOPEXのバランスを最適化することで総コストを削減し、戦略的に自動化を拡大する道筋を確保。
- カテゴリー単位のインサイトはCPG向けデータマネタイズ用にパッケージ化済み。

北米大手ドラッグストアチェーンの事例
目的:棚在庫の充足率向上と労働効率の改善。在庫の不正確さを解消し、作業実施や遵守状況の視覚的な証跡を確保する。
データ取得のニーズ:配送頻度が低いため、棚のデータ取得は週単位で実施。
解決策:
- エコノミー既存のZebra端末を活用するモバイルデータ取得が最も経済的。
- 低頻度対応週1回の更新サイクルでは、ロボットや固定カメラシステムはコスト効率が低い。
- 店舗レイアウトの制約通路が狭いためロボットは実用的でなく、固定/ワイヤレスカメラは小規模店舗や特定エリアで視野制限の課題あり。
- 将来の拡張大型店舗の売れ筋棚には固定カメラを追加して自動化を拡大する可能性。
結果:
- 棚切れ(アウト・オブ・ストック)の43%を特定し、棚在庫充足率を5.0%ポイント改善。
- 既存のTC52端末が、棚在庫充足率や価格遵守向けデータ取得に対応可能であることを実証。
- 店舗全体のデータを1時間未満で取得し、従業員の満足度と業務生産性を向上させるために、既存のハードウェアを使用します。
- ギャップスキャンや価格チェック作業の廃止を計画。
- 実際には在庫ありとされていたのに棚にない「ファントム在庫」を解消し、店舗システムの在庫を即時修正。これにより再発注も迅速化され、在庫精度が向上し、棚在庫充足率と売上が増加。追加の設備投資は不要。

棚のインテリジェンスソリューションを選択する際の重要な考慮事項
最適な小売データ収集方法を選択した後、次のステップは適切なベンダーを選択することです。各方法の能力を理解することは重要ですが、適切な棚のインテリジェンスプロバイダーを見つけることが不可欠です。以下に6つの重要な考慮事項があります:
- 正確さが重要です。 アソシエイトに提供される棚の洞察の正確性は99.5%以上でなければなりません。その閾値以下のものは、効率性を損ない、ユーザーの受け入れを阻害し、収益を生む機会を逃し、在庫切れを防ぐことに失敗します。
- データキャプチャの提供: 理想的なベンダーは、さまざまなデータキャプチャ方法(モバイル、固定/無線カメラ、ロボットなど)との互換性を提供し、異なる店舗環境やデータ収集頻度に合わせることができるべきです。これにより、高い投資収益率(ROI)を確保し、CAPEXとOPEXを効果的にバランスさせ、妥協することなくさまざまな店舗タイプにスケーリングすることが容易になります。
- ベンダー経験: 小売りのワークフローを理解し、堅牢なデータプライバシーとセキュリティ基準を持ち、特定のドメインモデルを持つベンダーを選択することは、変化のプロセスをナビゲートし、より速い価値の実現を支援することができます。
- システム統合棚の知能は、プランオグラムシステム、在庫管理、タスク実行ツールなどの既存のテクノロジースタックと調和して機能する必要があります。堅牢なAPI、統合機能、およびこれらのシステムとの経験を持つベンダーを探してください。
- 洞察の実行可能性と優先順位付け: データを収集するだけでなく、それに基づいて行動することが重要です。ベンダーが明確で実行可能で、重要なものを優先順位付けして提供することができることを確認し、店舗チームが最も重要な行動を取れるようにしてください。
- 拡張性とサポート: ベンダーは、フォーマットや地域を横断して簡単かつ迅速にスケーリングできるソリューションを提供し、必要に応じてサポートやイノベーションを提供すべきです。導入後のサポート、ロードマップの可視化、パートナーシップアプローチについて尋ねてみてください。
棚の洞察の正確さは、スキャンされたすべてのSKUの不正確なアラートの%の逆数として計算されます。
要点
最適な小売データ収集方法を選択することは、小売業者の運営目標、店舗形態、予算の考慮に依存します。
各方法(モバイル、ロボット、固定、またはワイヤレスカメラ)には、それぞれ長所と短所があります。小売業の意思決定者は、特定の店舗に対して正確性、労力、コストのトレードオフを評価すべきです。
多くの場合、ハイブリッドアプローチは棚の知能ソリューションを展開するために最も費用対効果が高く柔軟な方法です。
小売業者は、特定の要件や制約を注意深く評価することで、棚の在庫状況を最大限に活用し、投資を最小限に抑えつつビジネスの成功を促進するカスタマイズされた棚の知能システムを設計することができます。

棚の情報を活用した戦略
信頼できる洞察力を持つ、ハイブリッドデータキャプチャによって提供されます。